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綿を植えよう。

綿を植えよう。

「はと急便。その5」




「口外しないように…」
と言って男が口にしたのは

皆目見当もつかないようなことだった。



「実は、この鳩の夜間便は
この次元を超えて、手紙を届けることが出来るのです。」
と。


そんなことを突然言われて
私はたじろいだ。

もしかして、胡散臭い会社なの…?
私は思わず、あたりを見回した。

部屋には、鳩の眠る温かいにおいと
静かな寝息が聞こえるだけだった。



「信じてくださらないのも無理はありません。
しかし、あなたがここにたどり着いたのは
決して偶然ではありません。

私たちは、誠実な手紙を書いてくださるあなたを
選んだのです。

あなたは偶然にも見える
必然の重なりによってここに導かれたのです。

信じてみてください。

この夜間便には、伝票など必要ありません。


あなたが夜中に手紙を書き、
鳩に、渡したい相手を伝える。

そして、
鳩の帰りを待ちながら、豆を煮る。
もちろん、祈りながらです。」





帰り道、夕暮れの街を
木のカゴの中に鳩を入れて
私は歩いていた。

何だかとても不思議なきもちだった。



公園でふと、立ち止まり
ベンチに座った。



鳩は、私の膝のカゴの中で静かに眠っていた。
その体温が
カゴ越しに、私にも伝わってきた。



「鳩、信じてみるよ」



そういうと鳩は目をあけて
「クウ」とひとつだけ鳴いた。








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